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土と音楽  中澤 きみ子 氏
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それから今日は、この場で一つお伝えすることがあります。おんぷの祭典にも来てくれた、私の大好きなドイツ人ピアニストのヘンリ・シーグフリードソンのことです。今朝、豊岡に行こうというまさにこの日に、彼からメールがきました。「とうとう、僕の右手が動かなくなった。ドイツで最も優秀なドクターにも見てもらったが、再起の可能性はない。今日から僕は左手のピアニストとして生まれ変わります」と。

去年、豊岡に来た時から彼は右手に支障をきたしていました。誰も気がついていないようでしたが、私は気がついていた。あの時に弾いてくれたフィンランディアが、最後のフィンランディアになってしまいました。ヘンリは演奏はできないかもしれないけれど、たとえば、左手の指揮者として活躍することもできる。これからもずっと私たちとともにいます。ヘンリにまた豊岡に来てもらえたらなあと思います。

彼はいま、コンサートを全てキャンセルしています。ちょっと手が動かなくなると、もう演奏はできないのです。音楽というものはなんてはかないものか。今日の演奏は今日のだけのもの、あの時の演奏はあの時のだけのもの、消えてしまうもの、空気のなかを漂って消えて行ってしまうもの、私たちだって明日の命も分からない。だからこそ、音楽はみんなの心をうつのです。

人間の心を修理することはとてもむずかしい。そのことを私たちは東日本大震災で学びました。深い悲しみを背負った人は涙も出ない。けれど、音楽は、内に悲しみをためて耐えている人の心に響くのです。美智子妃殿下がおっしゃったように、『音楽は人の外に涙を流させる力がある』のです。音楽は人の心を修理する助けとなることができる。その音楽の力を、私は信じています。

えーっと、、今日はバイオリンを持ってこない予定でいましたが、やっぱり持ってきてしまいました。はい、そうです、ストラディバリウスです。ちょっとですが、音を聴いていただきたいと思います。準備しますので、少しお時間をくださいね。

中澤宗幸:家内がバイオリンの準備している間、ちょっとだけ私も。久しぶりに家内の話を聞いて、私もやりたいことやってきたなあと、自分のことを改めて振り返る思いでした。昨晩の息子のことは、本当にうれしかったんです。自分たちが一生懸命生きてきた後姿を見ていてくれたんだなあって。ひとり息子ですからね。二人の思いを受け継いでくれる息子のことは、本当にうれしいんです。私たちの思いはただ一つです。底辺に音楽を広めたい。子どもたちに音楽を届けたい。それだけです。あ、あんまり長くしゃべっちゃうと、ご迷惑ですね。今日はみなさん、本当にありがとうございました。

※ ここで、中澤きみ子さんのバイオリン演奏、2曲。(鳴りやまない拍手!)

アンコールは 11 月の豊岡までとっておくことにします。本日は本当にみなさん、どうもありがとうございました。ぜひまた、お会いしましょう(笑顔)!

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