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土と音楽  中澤 きみ子 氏
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私がバイオリンを習ったのは、「スズキ・メソード」で知られる鈴木先生です。うちからお稽古に出かけて行くときは、可愛らしい洋服を着せてもらって、私だってお嬢様なのよって感じで、どこからどう見てもお嬢様のふりをして行くのです。

あるとき、レッスン中にふと自分の左手の爪がまっ黒なことに気がつきました。ちゃんと手を洗ってきたはずなのに、あんなにちゃんと洗ったのに、どこから見ても私はお嬢様に見えるのに、私の左手の爪は黒かったのです。かーっと恥ずかしくなりました。爪の中の土。この爪の土を先生に見られてしまった。ああ、先生にバレてしまった。なんて恥ずかしいことなんだろう!乙女の気持ちは傷つきました。

私の家では、家族全員で田植えや畑をしていました。私も、バイオリンのお稽古の直前まで畑の仕事をするのが当たり前でした。他のお嬢さんたちは畑仕事なんてしない、どうして私だけが土を触らなくちゃならないんだろう、どうして農業しながらバイオリンを習わなくちゃならないんだろうって、子どもですからね、他の子たちと自分を比べてなんだか 悲しくなったこともありましたが、でも、今思うと、土に触れることで得られたことは、非常に大きなものだったのです。

お米を食べるためには、毎日毎日、田んぼの様子を見てやらなくちゃならない。日照りのときには水をやる、草が生えてきたら草をとってやる。稲刈りしたら脱穀する。お米になるまで、ものすごく大変なんです。ものを食べるために育てること。土によって私たちは人間の生命を育てている。土から生まれている。

こうして私は畑仕事をしながら、5歳からバイオリンを学び、東京ではなく新潟の大学に進みました。この時から、アルバイトでバイオリンを教え始めました。国立大学の授業料が1万8千円の時代に、1レッスンで千円いただいていましたから、なかなかのものです。教え子たちはぐんぐん上達して、東京の音大に入るようになりました。私は自分でバイオリンを演奏することも好きだけれど、教えることが向いているのかもしれないなあと思うようになります。

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