セッション
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イマドキの野生動物
宮崎 学 氏(自然界の報道写真家)
4. 300年・400年の時間軸で見ること
もう一度言いますが、クマは縄文時代から生きているわけですよ。クマは人と「共存」していた。なのに今、クマが出た!と言って騒いでいる。ちがう、「出た」んじゃなくてクマは「いた」んですよ。そもそもそこはクマたちの暮らしの場所だったんだから。なのに「人間の生活圏にクマが出てくるなんてけしからん!」と言って、とうがらしスプレーをクマに吹きかけておしおきをする。そんなことをされたら、クマは人を憎みます。もう本当に行政のすることは見ていられません。山についてもそうです。「山が荒れている」と簡単に言う。 山については、タタラの頃から人間は徹底的に山に手をつけていました。かつての山は、今僕たちが見ているような山ではなかった。それは、「京都の絵図から見る歴史と景観」という資料を見ても分かる。江戸時代の京都周辺の山は、庶民が薪にして切ったからみごとにはげ山だったんです。それが、今、日本中うっそうたる緑です。ライフエネルギーが電気、ガス、石油になって、薪を使わなくなった。自然の回復力はそれくらいすごい。日本の自然(樹木)の回復力は、本当にすごいのです。300年・400年の時間軸で、しっかり「見る」こと。この視点を今、もう一度しっかりもたなくちゃなりません。昔は、山に手を入れるときも、何十年かたてば一周するような自然のサイクルを、かなり計画的に考えていたと思いますね、自然を知っていた。 これはちょうど僕が二十歳のころに撮っていた南アルプスの写真です。ここと同じ場所を、40年経った2011年に撮影しました。どうです、山の環境はこのくらい変わってしまうのです。1971年ははげ山同然だったところが、たった40年で森になってしまう。もう向こうの景色が見えないくらいになる。日本中の山は、今にもっと、手がつけられないくらいの森になりますよ。クマなんか減りやしない。 この二つの写真を見てください。こっちはカラマツを中心とした落葉樹。ばらばらと茂っていますね。こちらは人工的な杉の植林です。整然と植わっている。カラマツは冬には葉が落ちて地面に日があたって、ひこばえが生えてきて、どんどん遷移していく。だから、カラマツの山には、いろんな種類の木の実がなります。クマのうんこを調べるとそのことがよくわかる。実にいろんなものをクマは食っています。ナシ、クロモジ、サクランボ。丸呑みして種を出すんですね。 → 次のページ「5. 今も昔も人は生き物と同じエリアに暮らしている」
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