セッション
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イマドキの野生動物
宮崎 学 氏(自然界の報道写真家)
2. 現代人は間接的無意識に野生動物を餌付けしている
みなさま、どうも。今すでに、僕の写真みなさんもう勝手にカメラで撮っておられますね、どうぞどうぞ。ツイッターやフェイスブックにどんどん乗っけてください。結構です。 さて、ここに写っているのは、シカ、イノシシ、サル、クマですね。今、彼らがめちゃめちゃ増えていて自然は荒れている、なんてよく言われます。こんなことを簡単に言う人は、自然に分け入って見ていない人です。なぜこういう状況になっているのか、そこを考えなきゃ。 これは池の白鳥に餌をやっている人の写真です。いわゆる「餌付け」をしているところですね。「野生動物に餌をやるなんてけしからん」と、餌付けをする人は犯罪者のように言われます。けれど、まさか自分が餌付けしているなんて思ってもないのに、結果として餌付けしてしまっている場合もたくさんあるんです。「間接的無意識の餌付け」です。そういう例をちょっとご紹介しましょう。 はい、みなさん、これを見てください。新潟平野でコシヒカリを作っている田んぼの収穫が終わった後の写真です。カモたちがたくさんいますねえ、みんな落穂拾いしてます。機械でだーーーと刈り取った後、米粒が落ちていようが気にせず(昔は一粒残らず徹底的に人が手で拾っていました)放置する今の米作りの結果、カモたちに餌付けしてしまっているんです。 はい、これは信州のりんごです。山に穴を掘ってリンゴを大量に捨てています。シーズンが終わったら土をかぶせて埋めてしまうんですが、りんごのシーズンが終わるまでは穴があいたままになっている。ここにたくさんサルが来ています。子ザルたちは、このリンゴを「おふくろの味」として覚え、そのうち捨ててあるリンゴより、木になっているリンゴの方がおいしいことを知って、リンゴ園を襲うようになる。僕は自分の住んでいる長野で、30年も前からこのことについて警告していますが、農家の皆さんにはえらい怒られましてね、「宮崎はとんでもないことをしゃべりやがる」ってね。でも、これが事実なんですよ。写真が語ってくれます。 ミカン、ナシなどの果物の大量捨て場所や、田舎でよく見るコンポストにも、タヌキやキツネが来ています。これはお墓のお供えものをいただきに来ているサルです。ハクビシンやクマ、アライグマなども来ています。お墓のお供え。まさかこれが「餌付け」になっているなんて、誰も意識してないでしょ。 はい、これは野良竹藪です。今の私たちは全く竹を利用しなくなっちゃった。ちっとも山に入らないので、竹藪はどこもひどい野良状態です。このどこが「無意識の餌付け」になるのか、分かりますか? 一番おいしいタケノコを今誰が食べていると思いますか、そうイノシシです。彼らはここ何年かで急速に学習していて、ちょっと頭の出始めたやわらかくておいしいタケノコだけを狙ってたらふく食べる。食べて食べて食べて、食べつくした後、やっと僕の食べる分がちょっと残っているという具合。栄養たっぷりのタケノコを食べて、イノシシはどんどん力をつけます。 次。ちょうど僕が二十歳のころ(1971年)、国が高原牧場づくりをすすめる時期がありました。とにかく日本各地で山の木を切り倒し、ゴルフ場に近い勢いで牧場が盛んに作られたんです。けれども、その山岳牧場は一時期ちょっと使っただけで、放置されるようになった。そうすると、夜はシカのための食べ放題の牧草地になるんです。これもまさしく、「間接的無意識の餌付け」ですね。 さ、もう少し見てみますよ。はい、美味しそうな肉の写真が出てきました。但馬牛もあります。霜降りたっぷりに仕上げられるこれらの黒毛和牛。あんまり運動させずに、やわらかいエサを与えられて育っています。この牛たちのうんこは堆肥として利用されます。こんなふうに積み上げて発酵させるんですよね。これは牛の堆肥場です。塩分と栄養分をたっぷり含んだ糞尿から、雨が降るとエキスが染み出て醤油のような栄養分が堆肥場の周りに溜まる。これをシカが行列をつくって舐めにくる。シカにとってのサプリメントなんですね。どうですか、堆肥場が「間接的無意識の餌付け」になってるでしょう。シカがものすごくたくさん来ていることに、人は誰も気づいていないんです。昔のボットン便所にも来ていましたけれどね。 まだまだあります。はい、これは塩化カルシウムの入った袋です。雪の降る地域の皆さんならご存知ですね。道路の凍結を防ぎ、雪を溶かす目的でばらまくやつです。昔はスパイクタイヤで雪道を走ってたんですが、雪のない時もスパイクタイヤで道路を走っちゃったもんだから、アスファルトをむしってしまってその粉塵が北海道で問題になった。それでスパイクタイヤを使うことができなくなった。代わりに今私たちはスタッドレスタイヤ使ってますよね。 これは長野の山中にある橋です。橋の上にまかれた塩化カルシウムは、橋脚をつたって橋の下に流れる。だから僕は国土交通省にお願いして、橋の下にカメラを設置させてもらいました。そしたら、ほら、こんなふうにシカがたくさんやってきている。橋の下に流れおちて地面に染み込んでいる塩化カルシウムを舐めに来るんです。この写真、いいでしょう。橋をしっかり写し込みながら、シカをしっかりとらえている。この写真の構図はかなりテクニック(=明確な意識・思想)がいるんですよ、写真を読み込めない人もいますけどね(笑)。 → 次のページ「3. 生き物たちの「匂いの地図」を通して見ること」
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