6. スピーチのお手本・ジョブスのスピーチを分解する
どうでしたか、ジョブスのスピーチ。素晴らしいですよね。このスピーチを分析してみると、実によく練り込まれた構成であることが分かります。ちょっと詳しく見ていきましょう。皆さんがスピーチされるときにも、きっと参考になると思います。
<オープニング>
まず最初に、「私は大学を出ていない、今日が卒業式に最も近くで参加した最初の日だ」と言って、ぐっと聴衆の心をつかみます。聴衆の心とコネクトするのです。そこまで言ってくれるのか、と聴衆はいっきにジョブスを信頼する。心を開く。続いてジョブスは「今日話すことは3つだ」と言います。話の受け手に3つの「箱」を用意させるのですね。今から自分が話すことに対して、相手に心の準備をさせるのです。
「オープニング」にあたるこの部分を、ジョブスは非常にあっさり述べています。ここが長いといけません。できるだけ短く。スパッと終わること。
<ボディ>
そして3つのストーリーを述べていきます。3つのストーリーそれぞれについて、まずジョブスが経験した出来事を述べ、その出来事に対する葛藤と解決への苦悩を語り、そこから学んだ教訓を導き出します。「ボディ」を呼んでいるこの部分は、スピーチの中で最もボリュームのある大切なところです。ダラダラと要点もなく話してはいけません。おもしろく語ることです。どんな心理的な葛藤があったのか、それをどのように乗り越えたのか、乗り越えた先にどんな学びがあったのか。「スピーチの力」がここで試されます。
1 「点と点をつなぐこと」 将来に何ができるのか分からないまま大学をやめ、カリグラフィの授業にもぐりこんだ。そのときの知識が、世界で初めてパソコンで美しいフォントを表現することを可能にした。振り返ってみれば、バラバラで無関係に思えた点と点はつながっていく。
2 「愛と敗北について」 自分が立ち上げた会社・アップルを首になって初めて、いかにアップルを愛しているか気づいた、愛するアップルで愛する人にも出会った。いい仕事をするには、その仕事を心から愛さなければならない、だから、愛する仕事が見つかるまで決して妥協してはいけない、心から愛せる仕事に出会うまで探し続けることだ。
3 「死について」 ガンの宣告を受けた。死を意識したとき、一切のノイズを排除して本当にすべきことに向き合える。明日死ぬとしたら今日すべきことは何か、毎朝鏡に向かって話しかける。直感にしたがって、全力で今日を生きろ。
<クロージング>
そして最後に3つのストーリーをまとめる形で、メイン・メッセージを打ち出します。ジョブスにとっての宝物である言葉、全地球カタログの最終版の裏表紙に書いてある「ハングリーであれ、愚かであれ」を学生に贈るのです。「今日が人生最後の日だと思って、心にしたがって、愛することに取り組め!」と。
ジョブスのスピーチがいかに素晴らしい構成であるか、ご理解いただけたかと思います。これでこの後みなさんにしていただくワーク、「自分の失敗談を話す」ときの、まとめかたのヒントがだいぶ得られたのではないでしょうか。