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セッション
下り坂をそろそろと下る  平田 オリザ 氏
1.コミュニケーション能力とは何か
2.コンテクストや文化の「違い」と「ズレ」
3.コミュニケーションのデザイン
4.大学入試改革と地域間格差
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大学入試改革と地域間格差

2020年にセンター試験がなくなります。基礎的、基本的な知識や技能だけチェックし、後は各大学に委ねられるようになりますが、そのとき、潜在的な学習能力を測れと文科省は言っています。つまり、思考力・判断力・表現力、主体性・多様性・協調性を問えということです。

早いところはどんどん新しい入試、ユニークな入試を前倒し実施しています。選抜ではなく、特質を見極める試験、成長の出発点としての入試を行っているところもあります。マンモス大学では無理なので二極化せざるをえませんが、その他の大学は生き残りをかけて知恵を絞ってきます。大学側は受験準備のできない問題を考えるので、子どものうちから慣れていないと太刀打ちできなくなりますが、これには文化資本、センスが必要です。

都会の中高一貫校ではほとんどがアクティブラーニングに取り組んでいます。また、文化資本やセンスというものは二十歳ぐらいまでに形成されますが、これらを培うには、本物に触れさせるしかありません。理屈ではなく良いものを見せ続けることが大切です。ということは、東京の子が圧倒的に有利なのです。

このような文化の地域間格差は、経済の格差とともに放っておくとどんどん広がります。教育の格差はまだ目に見えますが、文化格差は発見すらされないので、スパイラル的に負の連鎖が広がっていきます。文化資本は、進学や就職に直結する力であり、放っておくと東京一極集中がますます強まっていきます。地方にこそ、文化政策、教育政策が大事なのです。一人ひとりの子に文化資本が蓄積されるような教育政策が必要です。

岡山県の奈義町という小さな町では、きめ細かい子育て支援と教育改革の結果、合計特殊出生率が2.8になり、隣の津山市からのJターンが相次いでいます。豊岡市もこのほど協定を結びました。町役場の採用試験に演劇を取り入れ、試験官も管理職だけでなく若い女性を登用するなど、新しい感覚の政策をどんどん取り入れています。

若い夫婦に選ばれない自治体は滅びてしまうと言われますが、I、Jターンは、教育文化政策をきちんとしないと、来ません。若い夫婦はエゴイスティックに動きます。自分の子どものことだから当然です。そこに既得権益は関係ありません。

地方には雇用がないと言われますが、雇用があればいいんでしょうか。若い人は、雇用はあっても自分に合う仕事がないと言います。では、みんな東京で自分に合った仕事ができているのでしょうか。もちろんそんなことはないけれど、なんとなく東京には可能性があると思われているわけです。地方の問題は、自分に合った仕事はあるにはあるが、それだけでは食べていけないことです。複数の仕事を持つなど、複合的な仕事で食べていくという発想がこれからは必要でしょう。

来ない理由が、教育、文化、医療であることははっきりしています。開かれた町でないと来てくれない。リベラルでオープンなまちにしかIターンは来ないのです。

怒らないでほしいのですが、都会の人は、村八分を恐れています。と同時に、全部の行事に参加させられるのはいやとも思っている。適度な距離感を作ることが必要です。適度な距離をとったまちづくり、そしてさまざまな価値観も受け入れるコミュニケーション教育が大事になっていくでしょう。

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