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セッション
下り坂をそろそろと下る  平田 オリザ 氏
1.コミュニケーション能力とは何か
2.コンテクストや文化の「違い」と「ズレ」
3.コミュニケーションのデザイン
4.大学入試改革と地域間格差
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2年前の9月にお話いただいた平田オリザさん。今回が2回目の登場になります。2年前は「新しい広場をつくる」というテーマでお話いただきましたが、この但馬コネクションも「新しい広場」と言えるのではないでしょうか。今回は、最近のご著書である『下り坂をそろそろと下る』そして『わかりあえないことから』をベースにお話いただきます。

コミュニケーション能力とは何か

豊岡市では、演劇的手法によるコミュニケーション教育を来年度から全校実施することになっており、既にモデル校で演劇を使った授業が始まっています。

「コミュニケーション能力」は、近年、企業が人事採用に当たって重視することのダントツ1位に上がっており、80%の企業が重視しています。2位は「主体性」。ちなみに「語学力」を挙げた企業はわずか3%です。しかし、あまりにもコミュニケーション能力と言い過ぎてはいないか。そもそも教える意味があるのでしょうか。

ある演劇的なワークショップをさまざまなところで行ってきました。それは、列車に乗り合わせた知らない人に「旅行ですか?」と話しかける簡単なものです。中学、高校、大学でやってきましたが、なかなかうまくいきません。尋ねてみると、初めて会った人と話し合わないからと。若い人は他者との接触が少ないのですね。大人もけっこう苦手です。

日本人の場合、このような状況で「自分から話しかける」人は1割です。もちろん、相手や状況にもよりますが、エレベーターに乗り合わせた人に話しかけることもほとんどありません。これがオーストラリアやアメリカだと話しかける人の割合はかなり高くなります。

では、エレベーターで話しかける民族はコミュニケーション能力が高いのかというとそうではなくて、風土や文化が違うだけです。アメリカは、敵意がないことを相手に表さないとストレスがたまる文化、日本の場合、わざわざ声をかけて表すのは野暮という文化があるだけで、本来、良し悪し、優劣という問題ではないはずです。

日本語は敬語が発達しているため、相手との社会的関係が決まらないと敬語が決められず、話しかけにくいというのもあります。韓国の場合は年齢の上下によって敬語が変わるため、年齢がわからないと声がかけにくい。だから、初めて会った相手と話すとき、まず年齢を聞く習慣があります。イギリスの上流階級の紳士は紹介された人にしか話しかけないのがマナーとされています。「話しかける」という単純なことでさえ、このようにお国柄や民族性、国民性が出るわけで、普遍的な「コミュニケーション能力」なんて「ない」のです。

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