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コウノトリと羽箒  下坂 玉起 氏
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(司会者)皆さま、こんばんは。今日は横浜から下坂玉起さんをお招きして、「コウノトリと羽箒」というテーマでお話をして戴きます。ちょっとマニアックな分野なので、少し心配していましたが、今回も満席でセッションを開催いたします。自然系の方と茶の湯系の方と、どうぞ交流を深めて下さい。

皆さま、「羽箒」はご存じですか。茶の湯のお点前で道具や茶室を清めるための物です。下坂さんはお茶を習い始めて羽箒に出会った時に「これは何の羽?」と疑問を持ちました。野鳥の会の会員でバードウォッチャーの下坂さんにとっては当然のことです。しかしお茶の先生は答えることができませんでした。それではと、鳥仲間や研究者に尋ねてみましたがわからない。そこで下坂さんご自身の研究がスタートしました。今まで調査した羽箒は800本を超えるまでになりました。

豊岡にはコウノトリの郷公園を中心に自然や野鳥に興味を持つ方が大勢います。今日は生き物としての鳥だけではなく、日本人と鳥の関わり方など、自然と文化の間を行き来しながらのお話が聞けるのではないかと期待しております。

また今日は沢山の羽箒を展示して下さっています。珍しく貴重なものですので、お話を聞いた後もまたゆっくりご覧になって下さい。それでは下坂さん、お願い致します。

初めまして、下坂玉起です。私と羽箒との出会いについては、もう中田さんが説明して下さいました。バードウォッチャーが鳥の羽に興味を持つのは当然ですが、お茶の世界では誰も調べていないのですね。茶道具でも、茶碗などは研究者が沢山います。私が興味を持ったのは羽箒だったのですが、誰も調べていませんでした。私が動き出したことで縁が広がっていきました。

このコウノトリがクラッタリングしている写真は、先月、日本鳥学会の豊岡エクスカーションで元飼育員の久下さんが撮ったものですが、許可を戴いて今回の資料の表紙に使わせて頂いています。また私はずっと以前から、お亡くなりになった郷公園の池田先生と増井先生には大変お世話になっています。今回のお話を頂いた時に、お二人に恩返しする気持ちでお引き受けしました。

さて今日はこれから沢山の羽箒の写真をお見せします。美術館では所有している羽箒をなかなか展示しないので、二次使用しないという条件でスライドでの写真上映を許可して頂きました。これからお見せしますが、撮影はご遠慮ください。

羽箒の話は何度もしているのですが、今までは鳥系の人の集まり、茶の湯系の人の集まりと分かれていました。今日は豊岡という土地柄もあって、鳥系と茶の湯系の方が混在しているということで、前置きが長くなりますが、最初に少し基本情報をお伝えします。

それでもそれぞれ分からないことが出てくると思いますが、そこは我慢して聞いて下さい。分かることばかりでは面白く無いでしょうから。

(ここで下坂さん得意のイラストで、茶の湯の点前を説明する)

このように炭手前では羽箒を使います。ところがお茶を習っている人でも羽箒を知らない人が結構います。炭の値段が高いので先生が炭を使わない、または、集合ビルでは消防法で炭の使用が禁止されている、などの理由です。

私は裏千家流を習っていますが、羽箒を重要視するのは武家流が多いので、自然に武家流など他流派を調査することになりました。それは私にとって目からウロコの経験でした。羽箒を通して他流派を調査することによって、茶の湯の全体像が見えてきたという思いです。また羽箒から茶の湯の歴史や、日本人と鳥の関係史も見えてきました。

私の先生はお茶事が好きだったので、ほぼ毎月お茶事をしていました。お茶事では炭手前をし、主客相和して楽しむために問答をします。客は「お羽は?」と聞きますが、亭主の「鶴です」というお茶人にとっては当たり前の答えに、私は思わず「何鶴ですか?」と聞いて、変なことを聞く人だと思われたようです。

バードウォッチャーにとって、羽は唯一直接手に触れることができる、鳥との交流の大切な証しです。ただの道具と思うお茶人たちとは温度差を感じました。また、これまでの羽箒情報には間違いや混乱が大変多いことも調べてわかりました。今日は豊岡ということもあり、後ほどコウノトリについて詳しくお話したいと思います。

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