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歌舞伎の魅力  水口 一夫 氏
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そうそう、歌舞伎の「音」にも触れなくちゃなりませんね。歌舞伎の音は、大きくふたつに分けられます。「浄瑠璃もの」と「唄もの」です。浄瑠璃ものは、ストーリーのある邦楽ですよね。唄ものは情景をうたうものです、桜の花がきれいだとか。

浄瑠璃ものの成り立ちには、面白いエピソードがあるんです。安土桃山時代の武将、織田信長、みなさんご存知ですね。ある時、信長が病気になった。床に臥せっている信長を楽しませようと、節をつけて曲を演奏したら、短気な信長は「ええい、そんなもの、面白くもない!下がれ下がれっ!」「そんなしょうもないもん、聞かせるな!」と、バッサリ。

それで、なんとか信長が喜びそうな、おもしろいものを誰かに書かせよう。そうだ、祐筆(ゆうひつ、手紙を書いたり文書を管理する人のこと)の女性はとても文才がある、彼女に頼んでなにか物語つくってもらおう、ということになった。それでできたのが、「義経と浄瑠璃姫」の物語だと言われています。この物語は、源義経と知り合った浄瑠璃姫は、再会を誓って別れるんですけれど、義経は二度と戻って来ることはない、悲しみにくれた浄瑠璃姫は入水して死んでしまうという悲恋ものです。

信長が寝るまで「義経と浄瑠璃姫」の物語を語って聞かせたんですね、毎晩「ええとこ」で終わって、続きはまた明日ってことになるんですが、信長はこの物語をとても気に入った。また聞きたい、明日も聞きたい。そのうち、琵琶を合わせてやってみるとか、いろいり工夫されるようになる。そうするとまた信長は聞きたくなる。

この物語は、江戸時代に「小野のお通」という女性によって『浄瑠璃十二段草子』として発表されます。非常にドラマチックな浄瑠璃草子として、以後長く、三味線語りなどで愛されるようになるんですけれど、織田信長の寝物語に語ってきかせるために生まれた「義経と浄瑠璃姫」が、いわゆる「芸能」のひとつの形として定着してったというわけです。そして、これが、歌舞伎の「浄瑠璃もの」の起源となった。歌舞伎の「浄瑠璃もの」のストーリー性は、こんなところに起源があるのです。

また、江戸時代、江戸で3座、大阪で5座、京都で7座と、結構な数の座がありました。お客さんに飽きられないように、次々に新作をかけたいけれど、そんなにたくさん本書けません。そうや、人形浄瑠璃の本から、ストーリーもらおか。そうして、浄瑠璃の物語を、歌舞伎の演目としてやるようになるんですね。

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