セッション
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本の未来について 幅 允孝 氏
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中田)そんな幅さんは、今年から、豊岡市城崎の地域プロデューサーに市から任命されたんですよね。もともとの豊岡市とのご縁は、同じく今年の4月から、城崎国際アートセンターの館長に就任された田口幹也さんのご友人であったことです。田口さんは長らく東京で暮らした後、ふるさと豊岡に戻ってこられた。 幅)ええ、そうです。あれー、田口が東京からいなくなっちゃったねーなんて言ってたら、「豊岡においでよ」って呼ばれるようになって。それで、城崎温泉の三木屋旅館のリノベーションにも関わることになりました。今日は三木屋の若旦那の片岡大介くんも会場にいますから、ちょっと本人から、説明してもらってはどうでしょうか。 片岡)どうも、みなさん、はじめまして、城崎温泉で三木屋という旅館を営んでおります、片岡です。当館は志賀直哉が1903年に逗留した宿です。1917年に書かれた「城崎にて」をご存知の方は多いと思います。 志賀が当館に来たころの城崎は、わーっと騒いで宴会するだけを楽しむような宿泊のあり方ではなく、長期滞在して、本を読んだりしながらゆっくり静かに時間を過ごす「湯治」の考え方が一般的でした。
そんなとき、田口さんに幅さんを紹介してもらって、いろいろお話をしながら、プロジェクトを進めることができた。僕の考え方を整理してもらえたんです。このことは本当に心から感謝していますし、僕にとってもとても勉強になるかけがえのない経験でした。 幅)はじめて片岡さんにお会いした時、たくさんお話をお伺いしたんですが、片岡さんは驚くほどたくさん本を読んでおられて、多くの本を知っている。志賀直哉に関しても、ものすごくたくさんしっかり読み込まれていて、自分の感じたことや考えをしっかり持っておられる。その考えを言葉にできる。もう僕がなんにも言うことはないんじゃない?片岡さんが好きな本を並べたらそれで十分素晴らしじゃないかって、思いました。 それでも、一緒に飲んだり食べたりしながら、いろいろお話を聞いていると、片岡さんがちょっとしたジレンマを抱えていることも分かった。志賀直哉が泊まった歴史と由緒ある旅館を守っていく立場として、文学的な香りを保持したい思いはある、しかし、いつまでも、ただ志賀直哉の『城崎にて』だけに頼り続けることに、迷いというか、疑念のような、100%納得できない感情がわだかまっている。どうしたらいいか、踏み込めないでいる。 それで僕は、志賀直哉の『城崎にて』を新しくアップデートしたらいいと思いました。また、志賀直哉に関連する本ばかりを集めた本棚にするのではなく、「本が読みたくなる本」を集めてはどうかと思いました。 → 次のページ
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